AGA治療薬で初期脱毛は本当に起こる?(治療薬の科学的考察)

漫然とAGA治療薬で初期脱毛が起こると勘違いされがちですが、これは正しくありません。

ミノキシジルでは初期の脱毛が起こりうる一方で、フィナステリドではほとんど起こりません。

初期の脱毛と治療薬の機序について

毛髪治療において、初期の脱毛(shedding)は特にミノキシジル治療で顕著に見られる現象です。一方で、フィナステリド使用時にはほとんど報告されません。ここでは、初期の脱毛のメカニズムとそれぞれの治療薬の作用機序について詳しく説明します。

ミノキシジルの機序と初期の脱毛

ミノキシジルの使用によって起こる初期の脱毛は、主にWnt/β-カテニンシグナル経路の活性化によるものです。

  1. Wnt/β-カテニンシグナルの活性化:
    • ミノキシジルはWnt/β-カテニンシグナル経路を活性化することで、毛包の成長期(anagen phase)への移行を促進します。Wntシグナルは、毛包の成長と再生に重要な役割を果たします。
    • 参考論文: Guo H, Yang K, Deng F, et al. (2020). “Minoxidil promotes hair growth through stimulation of epithelial β-catenin and dermal papilla-derived IGF-1”. Biochemical and Biophysical Research Communications. 525(4): 1085-1092.
      • この研究では、ミノキシジルがWnt/β-カテニンシグナル経路を活性化し、毛包の成長を促進することが示されています。
  2. 成長期への移行:
    • Wnt/β-カテニンシグナルの活性化により、休止期(telogen phase)にある毛包が急速に成長期に移行します。この過程で、古い休止期の毛が抜け落ち、新しい成長期の毛が生え始めるため、一時的な脱毛が発生します。これが初期の脱毛(initial shedding)です。
    • 参考論文: Olsen EA, et al. (2002). “A randomized clinical trial of 5% topical minoxidil versus 2% topical minoxidil and placebo in the treatment of androgenetic alopecia in men”. Journal of the American Academy of Dermatology. 47(3):377-385.
      • この研究では、ミノキシジル使用者の間で初期の脱毛(initial shedding)が報告されています。

フィナステリドの機序と初期の脱毛の抑制

フィナステリドは、5α-還元酵素の阻害薬であり、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を抑制します。DHTは毛包のミニチュア化を引き起こし、脱毛を促進する主要な要因です。フィナステリドの作用機序は以下の通りです:

  1. DHTの抑制:
    • フィナステリドは、5α-還元酵素タイプIIを阻害し、テストステロンがDHTに変換されるのを防ぎます。これにより、頭皮のDHT濃度が低下し、DHTによる毛包のミニチュア化が抑制されます。
  2. 毛包の回復:
    • DHTの濃度が低下することで、ミニチュア化された毛包が徐々に回復し、通常の成長期に戻ります。このプロセスは緩やかに進行し、急激な毛の脱落(初期の脱毛)を引き起こすことはありません。
  3. 毛髪サイクルの安定化:
    • フィナステリドの使用により、毛髪サイクルが安定化し、新しい毛髪の成長が促進されますが、これは急速なサイクル変化を伴わないため、初期の脱毛はほとんど見られません。
    • 参考論文: Kaufman KD, Olsen EA, Whiting D, et al. (1998). “Finasteride in the treatment of men with androgenetic alopecia”. Journal of the American Academy of Dermatology. 39(4): 578-589.
      • この研究では、フィナステリドがDHTの抑制を通じて毛包のミニチュア化を逆転させることを示していますが、初期の脱毛の報告はほとんどありません。

まとめ

ミノキシジルによる初期の脱毛は、主にWnt/β-カテニンシグナル経路の活性化によって引き起こされます。この経路は、毛包の成長期への急速な移行を促進し、結果として初期の脱毛が発生します。一方、フィナステリドはDHTの抑制を通じて毛包のミニチュア化を緩やかに逆転させるため、急激な毛の脱落を引き起こさず、初期の脱毛はほとんど発生しません。これらの現象は、それぞれの薬剤の異なる作用機序に基づいています。

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