― インド旅客機墜落事故から考える ―
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2025年5月、インド・アーメダバード空港を離陸直後に墜落したエア・インディア機の事故は、世界中で大きく報じられました。
事故調査の初期報告によると、離陸直後にエンジンへの燃料供給スイッチが“オフ(CUTOFF)”に切り替わった可能性が指摘されており、墜落の直接的な原因になったとみられています。
しかし、実際にこのスイッチがどういうもので、どれほどの操作が必要なのかについては、一般にはあまり知られていません。
本記事では、ボーイング787の燃料制御スイッチの構造と誤操作防止機構について、実際の図解を用いながら考察していきます。
燃料制御スイッチとは何か?
ボーイング787には、それぞれのエンジン(左・右)に対応した2つの**燃料制御スイッチ(Fuel Control Switches)**があり、以下の2つのモードを持ちます:
- RUN:燃料を供給し、エンジンが運転状態となる
- CUTOFF:燃料供給を停止し、エンジンがシャットダウンする
このスイッチは、エンジンの始動・停止時に使用されるものであり、通常、飛行中に操作されることは想定されていません。
操作は簡単ではない ― 安全構造の解説
燃料スイッチが“オフ”に切り替わるという事態が、果たしてどれほど現実的なのか?
以下の図は、ボーイング787型機のスロットルレバー付近に設置された燃料スイッチの構造を示しています:

この図から読み取れるように、ボーイング787の燃料制御スイッチには2重の誤操作防止構造が組み込まれています。
🔒 ストップロック機構(Stop Lock Mechanism)
- スイッチは、単に左右に倒すのではなく、一度上方向に持ち上げてロックを解除しなければ操作できません。
- パイロットが明確な意図を持って操作する必要があり、振動や偶発的な接触では作動しません。
🛡️ ガードブラケット(Guard Brackets)
- スイッチの両側には金属製のガードが設置され、物理的にスイッチを保護しています。
- 隣接する手や機材が触れてもスイッチに干渉しないよう配慮されています。
なぜ「CUTOFF」になったのか?事故調査の焦点
初期報告では、両エンジンのスイッチが1秒以内にCUTOFFに動かされたとされています。
これは設計上、極めて異常な事態であり、以下の可能性が検討されています:
- パイロットによる意図的または誤認操作
- 計器表示や手順の混乱による錯誤
- 整備・設計上の問題(例:ロック機構の摩耗)
操縦室の音声記録には、パイロットの1人が「なぜスイッチが切られたのか」と問い、もう1人が「自分はしていない」と返すやりとりが残されており、調査は継続中です。
結論:航空機設計はヒューマンエラーを前提としている
この構造を見る限り、飛行中に燃料スイッチが意図なく“オフ”になることはほぼ不可能に近いと言えます。
それでもなお今回のような事態が起きたことは、航空機の安全設計がいかに「人の行動」を想定して成り立っているかを改めて浮き彫りにしました。
設計・訓練・運用という三位一体の安全対策の中で、どこに弱点があったのか。最終報告書の公表が待たれます。