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本記事では、世界最大の資産運用会社BlackRockが提供するiShares Bitcoin Trust(IBIT)について、発行主体・保管体制・安全性・税制・国内展開可能性の5つの観点から、最新情報に基づき科学的かつ客観的に分析します。IBITはビットコインの現物価格に連動する米国初のスポット型ビットコイン上場投資信託(ETF)として2024年1月にローンチされ、約1年で運用資産総額が数十兆円規模に急拡大した画期的な金融商品です。
1. 発行企業BlackRockの基本情報と破綻時の資産保護
BlackRock社の概要と市場地位
BlackRock, Inc.は1988年創業の米国資産運用会社で、2024年3月時点で約10.5兆ドルという世界最大の運用資産規模を誇ります。同社のETFブランドであるiSharesシリーズを通じて様々な上場投資信託を提供しており、IBITもその一つとして位置づけられています。IBITの正式名称は「iShares Bitcoin Trust ETF」で、2024年1月に米証券取引委員会(SEC)の承認を受けて開始されました。
IBITの法的構造と資産分離の仕組み
IBITはBlackRock系列のiShares Delaware Trust Sponsor LLCがスポンサーを務めるデラウェア州法上の法定信託として組成されています。この構造が投資家保護において極めて重要な意味を持ちます。信託の目的はビットコイン現物を保有し、投資家にその持分(受益権)をETFの形で提供することです。
IBITの発行する受益証券(Shares)は、BlackRock社やスポンサー企業の債務ではなく、信託財産であるビットコインの持分に対応しています。したがって、IBITが保有するビットコインはBlackRock本体の資産とは明確に分離管理(カストディアンによる分別保管)されており、BlackRock社が万一経営破綻してもIBITの資産には直接影響しない構造になっています。
破綻時の投資家資産保護メカニズム
IBITのビットコインは信託口座で分別管理されているため、仮にBlackRock社(またはIBITのスポンサー)が破綻しても投資家の保有ビットコインは信託財産として保護されます。重要なのは、IBITの受益証券はBlackRock社や関係会社によって保証されておらず、また信託財産は連邦預金保険公社(FDIC)や証券投資者保護機構(SIPC)等の公的保険の対象外である点です。
しかし、信託は独立した法人格を持つため、スポンサーに経営問題が生じても信託自体は存続し得ます。スポンサーが職務を継続できなくなった場合、信託契約に基づき後任のスポンサーや受託者(トラスティ)が選任される可能性があり、それが困難な場合でも信託財産を清算して投資家に分配する手続きがとられると考えられます。
要するに、BlackRock社の財務問題はIBITの資産には直接的には波及しにくい設計ですが、BlackRock社や公的機関による元本補償や保護の枠組みはないため、最終的な資産保全は信託構造とカストディアンによる管理に委ねられています。
2. IBITのビットコイン保管会社(カストディアン)とセキュリティ体制
主要カストディアンCoinbase Custodyの詳細
IBITでビットコインのカストディ(保管管理)を担当しているのは、米国の大手暗号資産カストディ企業であるCoinbase Custody Trust Company, LLC(コインベース・カストディ)です。Coinbase Custodyは暗号資産取引所Coinbaseの子会社で、機関投資家向けに高水準の保管サービスを提供しており、2024年3月時点で約1,710億ドル相当の暗号資産を保管下に置いています。
IBITが保有するビットコインの秘密鍵はCoinbase Custodyによって管理されており、高いセキュリティと規制基準への準拠が保証されています。具体的には、Coinbaseは顧客資産の大部分をオフラインのコールドウォレットで保管し、多要素認証や地理的に分散した鍵管理体制を敷くなど、ハッキングや盗難リスクを低減するための厳重な対策を講じています。
カストディアンの二元化とリスク分散
IBITでは当初、ビットコインの保管をCoinbase Custody単独で行っていましたが、2025年4月に追加のカストディアンとしてAnchorage Digital Bank, N.A.(アンカレッジ)を採用しました。Anchorageは米通貨監督庁(OCC)の認可を受けたデジタル資産専門銀行であり、Coinbaseに次ぐカストディアンとして位置づけられています。
これによりIBITはCoinbaseとAnchorageの二元カストディ体制を構築し、カストディリスクの分散を図っています。Anchorageは高度なセキュリティとコンプライアンス体制で知られ、コールドウォレット中心の鍵管理、充実した保険付保(暗号資産保険)、ハードフォーク発生時の厳格な対処方針、そして万一の損害発生時の賠償責任規定など、包括的なセキュリティ対策を講じています。
コミュニティからも「複数の保管先を確保するのは健全なリスク分散策だ」と支持する声が上がっており、BlackRockがIBITの保管基盤を着実に強化していると評価されています。
過去のセキュリティインシデント実績
現時点で、IBITのカストディアンであるCoinbase CustodyおよびAnchorageにおいて、信託財産であるビットコインが外部からの攻撃で盗難・消失するといった重大なセキュリティインシデントは公表されていません。Coinbaseグループは「これまでハッキング被害により顧客資産を喪失した事例はない」と述べており、Anchorageについても大規模な侵害事故の報告はありません。
両社とも金融当局の規制下にあり、内部管理やサイバーセキュリティには最新の注意を払っています。ただし、暗号資産市場全般では過去に複数の取引所やカストディ業者でハッキング被害が発生してきた経緯があるため、IBITにおいても**「起こり得ない」との慢心を排し、常に最新のリスク対策を維持することが重要**です。
3. 盗難発生時の影響、保険によるカバーの有無、リスク管理体制
盗難発生時の投資家資産への影響
仮にIBITの保管ビットコインに対するハッキング等の盗難が起きた場合、その損失は信託の価値毀損につながります。IBITの受益証券はビットコインの保有量に対応して価値が算定されるため、一部でもビットコインが失われればIBITの純資産価値(NAV)は低下し、投資家も損失を被る可能性があります。
重要なのは、そうした最悪の場合にも投資家が法的に取れる手段や補償には制限がある点です。IBITの信託財産(ビットコイン)は民間の保管会社に預けられているため、銀行預金のような公的保護は及びません。また信託、スポンサー、受託者、管理銀行(Custodian)等はいずれも盗難被害に対する無制限の賠償責任を負わない契約条件となっており、法的請求権は限定的です。
要するに、**「万全な保険があるわけではなく、信託のビットコインが失われても賠償責任を負う主体がいない」**というリスクファクターが存在します。
保険・補償体制の詳細と限界
上述のように公的保護はないものの、民間レベルでは一定の保険・補償体制が用意されています。IBITの主要カストディアンであるCoinbase Custodyの親会社(Coinbase Global)は、暗号資産カストディ関連の商業犯罪保険を最大3億2千万ドルまで契約しており、内部不正、ハッキング、鍵の物理的損壊・盗難、詐欺的送金などによる顧客資産の損失に備えています。
しかし、注意すべきはこの保険がCoinbase全体の顧客を対象とする総額契約であり、IBIT専用ではない点です。万一大規模なハッキングが発生した場合、Coinbase社内の他の顧客資産の補填にも充当されるため、IBITの損失を全額カバーできる保証はありません。加えて、IBITが保有するビットコイン量(数十万BTC規模)は保険金額を遥かに上回るため、市場全体における暗号資産保険の限界もあります。
もっとも、Anchorageなど追加カストディアンも保険付保を行っており、契約上厳格な損害補填規定を設けるなど、可能な限り投資家資産を保護する措置は講じられています。Anchorageは自己資本要件も充足しており、万一の損害賠償能力の担保にも努めています。
透明性確保とリスク管理の強化策
BlackRockおよびIBITは、盗難リスクを低減するための多層的なリスク管理を実施しています。先述のカストディアン二元化(Coinbase+Anchorage)はその一環であり、複数の保管先を確保することで単一故障点(Single Point of Failure)による全損リスクを緩和しています。
また、カストディ契約上も顧客資産の迅速なアクセスを保証する条項を設け、不透明な運用が行われないよう監視しています。例えば2024年9月、一部投資家から「CoinbaseがIBIT向けに実際の現物BTCではなく借用証書(IOU)で運用しているのでは」との懸念が提起された際、BlackRockはCoinbaseとの契約を修正し**「残高確認後、顧客の指示から12時間以内に信託保管口座から外部のブロックチェーンアドレスへビットコインを引き出せるようにする」**ことを義務付けました。
これは、万一投資家が保有ビットコインの引き出しを求めた場合に迅速にオンチェーン上で引き渡す体制を整えることで、裏付け資産が適切に保管されていることを示す措置です。このように、IBIT側は市場の不信感や潜在的リスク要因に対しても契約変更や体制強化で応え、透明性と安全性を高めるリスク管理を行っています。
総じて、IBITは「信託構造による資産隔離」「高度なセキュリティを誇る複数のカストディアン採用」「民間保険による一定の損失補填枠」「契約面での投資家保護条項」といった多面的なアプローチで盗難リスクの極小化に努めています。しかしながら、その保護は万能ではなく、残存リスクが完全にゼロになるわけではない点は留意が必要です。
4. 日本におけるビットコインETFの税制上の扱い
現行税制における暗号資産とETFの格差
日本では、暗号資産(仮想通貨)取引で得た利益は税法上「雑所得」に区分され、総合課税の対象となっています。具体的には、年間の利益額が他の所得と合算され、その合計所得金額に応じて5~45%の累進税率が適用されます(住民税・復興税を含め最高税率約55%)。暗号資産の売買益は株式や投資信託の譲渡益と異なり申告分離課税の優遇が無く、損益通算や繰越控除の制限もあるため、税負担が大きくなりがちです。
一方、ETFなど金融商品を通じた利益には一般的に分離課税(申告分離課税)が適用されます。日本の上場株式や公募投資信託の譲渡益・分配金は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税率で課税され、証券会社の特定口座で源泉徴収を選択すれば確定申告不要となる仕組みです。
ビットコインETFが日本で承認・上場された場合、その課税区分がどうなるかは現時点では確定していません。しかし、金融業界では「株式や他ETFと同様に分離課税の対象となる可能性」が指摘されています。仮に分離課税(20.315%)が適用されるなら、富裕層ほど税率が大幅に低減し、さらに源泉徴収によって確定申告の手間も省けるため、現物ビットコインを直接保有するよりも税制面で有利になるケースが多いと考えられます。
分離課税化に向けた業界の動きと政策提言
ビットコインETFの税制を巡っては、すでに日本国内で具体的な議論が始まっています。2024年10月には証券会社や信託銀行、有識者から成る**「国内暗号資産ETF勉強会」**が提言を発表し、暗号資産ETFおよび暗号資産現物取引で得た所得について申告分離課税とすべきと政府に求めました。
この提言では、暗号資産による資産形成を促す観点から税制優遇の必要性が強調されており、ETFを通じた間接投資も現物と同様に20%課税の範囲に含めるべきだとしています。政府・税制調査会でも近年、暗号資産の税務上の扱い緩和が議題に上がりつつあり、将来的に税率引き下げ(分離課税化)や損益通算の容認等が実現する可能性があります。
もっとも、現時点ではビットコインETF自体が国内未承認であるため、具体的な税制は仮定の段階です。仮に外国籍のビットコインETF(IBITなど)を日本の投資家が購入した場合、その売却益等は現行制度上は雑所得扱いになる可能性が高く、注意が必要です。税制変更が行われる場合でも、投資家の利用実態や国際的な課税ルール等を踏まえた慎重な議論が求められるでしょう。
いずれにせよ、ビットコインETFの国内承認が具体化すれば税制上の位置付けも議論が本格化する見通しであり、最新の法改正動向をフォローする必要があります。
5. 日本国内でのビットコインETF提供の可能性と関連企業の動向
国内承認の法的障壁と現状
現在(2025年時点)、日本国内でビットコイン現物ETFの組成・上場は認められていません。金融商品取引法および投資信託法上、ETFが組み入れ可能な「特定資産」に暗号資産は含まれておらず、法改正ないし政令改正が行われない限り国内運用会社が暗号資産ETFを設定することは事実上不可能となっています。
このため、現在日本の投資家がビットコインにエクスポージャーを得るには、(a)暗号資産交換業者で現物やデリバティブを直接取引するか、(b)海外で上場している暗号資産関連ETF・ETNに投資する、といった選択肢に限られています。後者については例えば、米国市場で2021年に承認されたビットコイン先物ETF(BITOなど)を日本の証券会社経由で買い付けるケースが既に見られます。
しかし米国の現物ビットコインETF(IBIT等)の扱いについては法的に不透明な点が多く、それが外国投信として認められるか等、明確な整理がなされていません。従って、現状では**「国内上場のETFがない」「海外ETFも公式には位置付けが未整備」**という状態であり、日本の投資家にとってビットコインETFは直接利用しにくい状況です。
国内金融機関の具体的な取り組みと準備状況
もっとも、海外でのビットコインETF解禁を受けて日本国内でも実現を見据えた動きが活発化しています。前述の**「国内暗号資産ETF勉強会」**の提言には、**野村證券や三菱UFJ信託銀行、大手法律事務所や暗号資産取引所(bitFlyer)**などが名を連ねており、まずビットコインとイーサリアムのETFから議論を進めるべきとしています。これは業界横断的な要望であり、金融庁など規制当局に対して制度整備を促す狙いがあります。
実際、野村グループは暗号資産分野に積極的で、カストディ会社のKomainu設立やデジタル資産専門子会社(Laser Digital)を立ち上げるなど布石を打っています。野村アセットマネジメントは既にビットコインETFに関する社内研究を進めているとされ、制度が整い次第、ETF組成に動く有力候補と目されています。
また、日興アセットマネジメントも市場レポートで「暗号資産ETFが誕生したことが話題」「日本では未承認で税制も未整備」と触れるなど、暗号資産を新たな投資対象として注目している様子が伺えます。その他、大和アセットマネジメントや三菱UFJ国際投信など国内大手運用会社も、顧客ニーズ次第では暗号資産ETFの商品化を検討する可能性があります。もっとも彼らは法改正待ちの状況であり、具体的な申請や計画は公表されていません。
海外ETFの国内取り扱い検討状況
他方で、海外のビットコインETFを日本の投資家に提供する動きも考えられます。例えばBlackRockのIBITが米ナスダックに上場し流動性も高まっていることから、ネット証券各社(SBI証券、楽天証券など)が外国株式扱いでIBITの売買を解禁する可能性があります。
日本の証券会社は既に米国ETFの多くを取扱っていますが、IBITのように信託型で投資信託法上の外国投資信託に該当するか不明瞭なケースでは取扱判断が慎重になり得ます。仮に扱うとしても、特定口座での損益通算や税計算が煩雑になる懸念があり、実務上の課題も指摘されています。
それでも、投資家保護と利便性を両立させつつ海外ETFへのアクセスを広げることは証券業界の競争力強化にもつながるため、今後なんらかの形で提供が模索される可能性は十分にあるでしょう。
将来展望と市場インパクト
現在、日本でビットコインETFを直接入手することはできませんが、市場関係者はその解禁に向けた準備と議論を進めています。野村や日興といった資産運用大手が中心となり制度改革への提言を行っていることは、将来の国内ETF上場への意欲の表れです。
また、海外ETF(IBITなど)の取扱いについても法的整理と顧客ニーズをにらみながら、水面下で各社が検討していると考えられます。日本におけるビットコインETFの実現時期は不透明ですが、金融イノベーションとしての意義は大きく、承認されれば税制優遇や投資機会拡大を通じて市場に与えるインパクトも大きいでしょう。
総括と投資判断のポイント
IBITは従来の暗号資産投資における多くの課題を解決する画期的な金融商品です。信託構造による資産分離、機関投資家レベルのカストディ体制、二元化されたリスク管理、そして透明性の高い運営体制により、ビットコイン投資の安全性と利便性を大幅に向上させています。
しかし、投資判断に際しては以下のリスク要因を慎重に検討する必要があります:
- 保険体制の限界:3億2千万ドルの保険は総額契約であり、IBIT専用ではない
- 公的保護の不在:FDICやSIPCなどの公的保険の対象外
- 税制上の不利:日本投資家には現状雑所得扱いの可能性
- 法的不確実性:日本での取り扱いや税務処理が未整備
- カストディリスク:民間保管会社への依存とシステムリスク
これらのリスクを理解した上で、ポートフォリオ全体における適切な配分を検討し、長期的な視点での投資判断を行うことが重要です。IBITは暗号資産投資の新たなスタンダードを確立した革新的な金融商品であり、特に機関投資家や大口投資家にとって魅力的な選択肢となっています。日本での制度整備も着実に進んでおり、中長期的には国内投資家にとっても重要な投資手段となる可能性が高いでしょう。
参考文献・出典:
- BlackRock公式サイト「iShares Bitcoin Trust ETF | IBIT」
- 米証券取引委員会(SEC)EDGAR – IBIT目論見書(修正S-1/A)
- SBI証券投資情報メディア「日本上陸はいつ?ビットコインETFについて今知っておくべきこと」(2024年12月13日)
- CoinPost「ブラックロック、ビットコインETFの一部懸念めぐりコインベースに契約修正を要求」(2024年9月24日)
- Crypto Times「ブラックロックのビットコインETF『IBIT』、カストディアンを二元化へ」(2025年4月9日)
- Bloomberg日本語版「暗号資産ETF組成、ビットコインなど優先に制度の議論を-提言」(2024年10月25日)
- 日興アセットマネジメント「新たなアセットクラスとして存在感を増す暗号資産」楽読レポート(2025年1月14日)
- 野村資本市場研究所「米国SECによるビットコイン現物ETFの承認」(2024年春号レポート要約)
※本記事はすべて公開情報および開示資料に基づいて執筆されています。投資に関する最終判断は、ご自身で情報を精査のうえ行ってください。